昨年から小学生になり、緩やかに歯の交換期に突入した息子。

ようやく下顎のB-Bが抜けて永久歯が生え始め、上の左右Aがやや揺れてきたある日の夕食時、彼の好物であるオクラの漬物を幸せそうに食べていた矢先に突然彼の口のあたりで【ボキリ】とあまり聞き慣れない音が響き渡った。

慌ててティッシュで口元を押さえ微動だにしなくなった息子の目がみるみる潤んでくる。

おそらく兼ねてより動揺している歯に変な当たり方をしたのだろう。(いっそ抜けてしまえばスッキリするのに)と思ってしまうのは歯科衛生士ならではか?

隣で夫が心配そうに声をかけたりしているようだが無視されていた。可哀想に。

少し落ち着いた頃、歯を見せてもらうと左上Aの位置が若干変な方向に曲がっていた。

食べ物が当たると痛くて食べられないと言うので明朝まで抜けないようなら歯科医院で抜いてもらおうという事に。

翌朝、起きてくるなり神妙な顔をして一言『歯医者さんで抜いてほしい・・・』

今まで頑なに歯科医院での抜歯を拒否してきたのに自ら言ってくるとはよほど困っているのだろう。早速その日の夕方に予約を入れ、抜歯をする事にした。

歯科の麻酔が未経験な息子。とりあえず歯茎に注射をされる事を説明、いざ診察室へ。

待合室で待っていると奥の方から一瞬くぐもったうめき声が。

数分で診察室に呼ばれ、ユニット上で止血のガーゼを噛んだまま放心状態で座っている息子と対面。

上の左右A共に表面麻酔だけで抜歯できたとの事。注射による麻酔初体験は叶わず。
ややしばらくして正気に戻った息子から一言ちょっとだけ、『2回目の方がちょっと痛かった』

その日の夜、食べると血が出ると言いながらも前歯のない状態で満足気にハンバーガーに食らいついていたのはまた別の話。